あの加藤とあの課長
「加藤。」

「はい。」



仕事の時のように私の名前を呼ぶから、思わずピンっと背筋を伸ばした。

そんな私に柔らかく笑いかけて、私の髪を撫でる課長。



「陽萌。」

「…はい。」



課長はこうして呼び方を変える。

恐らく、彼の中ではそれなりの意味があるんだろう。私には分からないけれど。


そんなことをぼんやり考える私の腕を引いて、課長は私をその腕の中に閉じ込めた。



「課長…?」



課長の匂いと、香水の匂いと、煙草とお酒の匂いがする。

……あと、甘ったるい匂い。



「…課長、香水臭いです。」

「随分くっつかれたからな。」



なんて言いながら私の頭に自分の顎を乗せる。私は香水の匂いが嫌で堪らないというのに。

(…嫌?)


なんで嫌なのよ。どんな匂いを纏っていようと、そんなの課長の勝手なのに。


ふと顔を上げると、私を見下ろす課長と目が合ってしまった。



「…陽萌。」



私…、もしかして……?



「課長。」

「ん?」

「…嫌です、こんな匂い。」



課長は少し固まって戸惑っている。



「綺麗所の香水の匂いなんて。」
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