王に愛された女 番外編




 その声が、面の男の声だと分かった時には、クリスティーヌの右腕を彼が掴んでいた。

「…え!?」

 男が歩き出す。

 クリスティーヌは彼に従って歩いた。

「ねぇ、あなたは誰?」

 クリスティーヌは彼に尋ねた。

 だが、彼は答えない。

 周りが煩すぎて聞こえないのだろうとクリスティーヌは思った。

 賑やかだった王宮の中庭を抜け、連れてこられたのは赤いレンガでできた建物だった。

 前に王宮へ来たときにテアンが言っていた「後宮」なのだろうとクリスティーヌは思った。

「あなたは、誰なの…?」

 クリスティーヌはそっと尋ねた。

 彼がクリスティーヌの右手を解放し、クリスティーヌに背中を向けていたのを回れ右した。

 茶色い面に描かれた黄色い大きな目とクリスティーヌの目がバチッと合う。

「やっと会えたな。忘れたか?俺だよ、カイルだ。オマエをずっと待っていた」

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