王に愛された女 番外編




 どこかで見た顔だった。

 大人びた、彫りの深い顔。

 金色の髪を腰まで伸ばし、緑の澄んだ目でカイルを見つめている。

「…クリスティーヌ…?」

 カイルは愛人の名前を呟き、否定した。

 彼女は死んだのだ。十年も前に。

 きっと彼女に似た誰かだろう。

 そう思ったときだった。

「…懐かしい名前」

 彼女が呟いた。

「え?」

 思わず、聞き返す。

「それ、私の前の名前らしいんです。十年も前に記憶を失くして、よくわからないんですけど」

 全身を雷で撃たれたような衝撃が駆け抜ける。

 まさか――。

「十年も前に?」

「はい。私、殺されかけて、記憶を失くしたみたいで…ってあ。私の生い立ちなんてどうでもいいですよね」

 彼女が苦笑した。

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