王に愛された女 番外編




「…だから俺は…」

 少年が言ったときだ。

 王の列が近くに見えた。

「あぁ、まずいぞ…」

 少年が声を漏らす。クリスティーヌは、少年が泥棒であると確信した。

 同時に、王の籠の前にいた一人の男が少年の顔を見て目を見開く。

 きっと少年は名の知れた泥棒なのだろうとクリスティーヌは思った。

 手練れの泥棒が、こんなところであっさり捕まるなんてとクリスティーヌは苦笑する。

「…あ…」

 先ほどの男が声を漏らした。少年はクリスティーヌと男を交互に見比べ、それから観念したように俯いた。

「あぁそうだよ。俺は王宮に入った泥棒さ」

 少年はスタスタと男の前まで歩いていき、両手を男に差し出した。

「これで満足だろ?」

 彼はクリスティーヌに顔だけ向けて言い、

「ほら、縄で縛れよ」と男に言った。

 男は困ったような顔をしたが、すぐに少年の両手を掴み、列から外れて王宮の敷地へと入って行った。

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