最終面接




「…例の一件の後な…

お前を課長に、推薦したのは。

推す心積もりができたのは。

あの子のお陰なんだぞ。」


「…えっ?」


“例の一件”すなわち、汚点以外の
なにものでもない、かの
“ハニートラップ事件”


「…迷ってたんだ。じつは。

お前は、仕事はできるし、
評点も十分にあった。

…でも、あの相手の女性は
まだ…ああ…今でもか。
向こうで、一丁前に健在だ。
その上、うちの女共に
お前との一件、いいように
刷り込み済だった訳だ。」



それは、俺も知っている。



だから、目立たない様に
自制して過ごしていた。



「その状況で、昇進…となると、
…正直、周りの反応が不安でな。

…先送りしようと、ほぼ決めて
いたんだ。そんな時だよ。

あの子、お前を褒めたんだよ。
最高の上司だって。

向こうの、会長も社長も、
同席の状態でな。」


“勇気ある行動だよな。
自分も色目で見られても
仕方ないっていうのにさぁ。”


秋刀魚の身をほぐして
口に運びながら、
誰に言うでもなく
放った言葉が、重かった。














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