誠─紅き華は罪人に祝福を与う─




「………珠樹、刀をひこう」


「奏?レオンさんの所へ連れていくんじゃないの?」


「今は……連れていかない。ただ、次、人に妖に危害を加えるならば、私はやっぱりお前を斬るよ」


「……っ」




栄太は涙を瞳いっぱいに溢れさせた。


今にも流れ出しそうな量だ。




「こらこら。奏らしくないな。かつては大事にした少年だっていうのに」


「……皇、彼方」




皆は刀に手をかけた。


それを意にも介さず、ただ彼方は微笑んでいる。




「彼にはまだやってもらわなくちゃいけないことがあるんだよ。だからここで殺されたり、連れていかれたら困るんだ」


「お前は……また私から大事なものを奪うのかっ!!」




奏の周りにはバチバチっと雷が渦巻いている。


真実、奏は怒り狂っていた。


それすらも彼方はただ口角を上げ、黙って見ている。




「…………僕もあんたを許さないよ。絶対に」


「これは罠だっ!!」




珠樹が栄太から刀を下ろし、彼方に向かって駆け走るのと、土方が何かに気づき声を上げるのはほぼ同時だった。


珠樹が離れてすぐに栄太と桜花の姿はかき消えた。


そして、彼方の隣へと再び現れた。




「彼らは返してもらった。珠樹、お前と遊んでいる暇は僕にはないんだよ」


「遊んでいる、暇、だって?」




珠樹の激昂が苛烈さを増す。


まさしく鬼神さながらに刀を操り、彼方に襲いかかっていく。


しかし、まだ彼方の方が上手であった。




「じゃあ、またね」


「……………」




鍔迫り合いで珠樹を押しやった一瞬の隙をつき、彼方は大きく後ろへ飛びすさった。


そのまま栄太と桜花を連れ、 彼方は忽然と姿を消した。


栄太は黙ったままであった。




「………………まだ足りないっていうの?」




珠樹の悔しげな独り言が妙に切なげにも聞こえた。




空が橙色をこし、血のように紅く染まる時刻になっていた。



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