誠─紅き華は罪人に祝福を与う─
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その頃、元老院でも一騒動起きていた。
「潮様…貴婦人より、伝令が届いています」
「貴婦人から?」
書類の整理をしていた手をとめ、第二課長、潮は青ざめた顔をした部下へと目をむけた。
通称貴婦人と呼ばれるこの女性、フランスにある湖に住む女性のことで、本名どころか、年齢、容貌、全く知られていない。
知られているのは大層気難しい気質で、強く美しい青年がお好きだというあまり嬉しくない事実だけだ。
その貴婦人からの伝令だという。
部下の青年が青ざめるのも無理はなかった。
「書簡にはなんと?」
「今、日本で面倒が起こっているのは知っておる。故に様子を探らせていた妾の僕が帰ってこぬ。どういうことであろうか。納得のいく説明を差し出すように。あの雷の娘がよい。すぐに来させよ。………だそうです」
「雷の娘…………奏か」
潮は持っていた羽ペンをインク壺に戻し、手を口の前で組んだ。
正直、今の奏の精神状態で貴婦人の元へやるのは不安だ。
だが、違う者を送ってこれ以上貴婦人の機嫌を損ねるのも得策ではない。
「これは…」
「あぁ。おそらく、人間から元老院入りした噂の彼らを見ておきたいんだろう」
「…やはり。………どうなさいますか?」
「……………行ってもらうしかない。奏達にそう伝えてくれるかい?」
「分かりました」
部下の青年が扉の向こうへと消えるのと入れ違いに新たな訪問者がやってきた。
「やっぱり噂が広まるのは早いね」
「仕方ないさ。何せ元老院で唯一の人間なんだからね」
「妖ばかりの元老院で毛並みの違う種。しかも、貴婦人が気に入りそうな使い手ばかりだとなれば合点もいく」
レオン、カミーユ、セレイルだ。
それぞれ第五、第三、第四の課長としての仕事があるはずなのだが、この所、各々本来の仕事をできないでいた。
それもこの一連の事件のせいであるが。
「……………早いとこ皇彼方の目的を探らないとね」
「本当だよ。おちおち彼らと勝負できやしない」
「仕事も増える一方で全く減らないしな」
「そうだね」
一瞬、影が彼らの本来の姿を写し出した。
だがそれも一瞬のこと。
すぐに元に戻り、潮以外の影はその場からかき消えた。