誠─紅き華は罪人に祝福を与う─
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「じゃあ、行ってくる」
「気をつけて」
玄関で見送る響を抱き寄せる奏の顔は悲壮感に満ち満ちている。
しばらく離そうとしないのには、本当は行きたくないというのが如実に表に出ているからだろう。
「奏、響をそろそろ離せ」
「……………分かってる」
斎藤に促され、奏はようやく離した。
響はあまりに強く抱き寄せたため乱れた奏の服をササッと整えた。
よくできた従妹どのである。
奏はいつもの着流しではなく、中国の道士が着るベトナムのアオザイに似た衣装に身を包んでいる。
一方の近藤達もいつもの着物姿ではなく、それぞれが一張羅を引っ張り出してきていた。
もちろん、珠樹も奏と同じものを用意させていた。
まずは中身よりも見た目から。
好印象を持たれすぎては後々面倒だが、悪い印象はもっての他。
何事も普通よりもちょっと良いくらいが丁度いいのだ。
もちろん、それが一番難しいのだが。
「奏ちゃん、行こう」
「奏に触るな」
沖田が奏に向かって差し出した手を珠樹が払い除けた。
またもや一戦交えようとする二人の後ろで山南が苦笑している。
土方は毎度のことだと溜め息を深く吐き、頭を左右に振った。
「二人とも、喧嘩はそこら辺にしておくんだ」
見かねた井上が二人の間に割って入るまで誰も止めようとはしなかった。
二人の間に入ってとばっちりを食おうものならば…あぁ、恐ろしや。
しかして、井上は日頃の行いからか、はたまた人柄ゆえか、その両方か、被害を被ることなくその場を納めた。
「じゃあ、門を開けるぞ?」
「あぁ」
「よっしゃいつでも来い」
ぐったりとしている奏は鷹の肩に寄りかかったまま。
門の開閉ができるようになった近藤の鶴の一声で次第に開かれていく門の向こう側を魚の死んだような目で見つめていた。