誠─紅き華は罪人に祝福を与う─
「帰ってきちゃいましたね。どうするんですか?土方さん」
「…………仕方ねぇ。言うしかねぇだろ」
言わずにいて真実を知った時と、言って真実を確かめた時。
どちらが奏を傷つけずにすむか。
選択肢が与えられ、そして選択するならば。
土方が選んだのは後者だった。
「うっわ。辛気くさいなー、この部屋」
皆の想い露知らず、奏は大広間に澪を抱き抱えて入ってきた。
後ろには響と斎藤、紫翠が続いている。
「土方さん、眉間のシワ。一体そこに何を挟むつもりなんですか?」
「とし、こわーい」
「そうですねー」
澪とキャッキャと笑う奏に変わった所は見られない。
この様子ではまだ誰にも聞かされていないらしい。
どこかもう奏は誰かに聞かされているんじゃないか、自分から言い出さなくてもいいんじゃないかと淡い期待を持ってしまっていた自分を呪いたい。
「………音無君。悪いのですが、澪ちゃんを連れて出ていてくれますか?」
「え?…………分かりました。澪ちゃん、勝手場にお菓子の材料用意しておいたから、皆の分用意しようか」
「うん!つくるー!!」
この頃とみにお手伝いをすることを喜ぶようになった澪は上機嫌で勝手場の方へ走っていった。
それとは対称的に、スッと襖を閉める響の顔は暗く沈んでいた。
二人が出ていくのを笑顔で見送った後、奏はそのままの顔で前に向き直った。
「奏……実はな…」
「………………そんな顔しないでくださいよ。もう一回死にそうな顔してる」
「こいつには俺が話した」
「…………お前が?」
「副長、紫翠の言っていることは本当です」
信じられないという風な顔をした土方に斎藤が応えた。
憮然として土方を睨む紫翠、笑みを崩さない奏に代わり、斎藤は言葉を続けた。
「栄太や桜花が皇彼方に手を貸していると、聞きました」
それは間違いなく自分達が伝えられた事実であった。
では何故、奏はこうも笑っていられるのだろうか。
栄太や桜花を忘れてしまったのだろうか。
あの、幕末の狐達が起こした事件の折りのように。