誠─紅き華は罪人に祝福を与う─
「鳴神に感謝するといい。天照様のお叱り覚悟で我を牢に呼んだのだからな」
「千早。それは…」
「大丈夫だ。熱で朦朧として聞こえてはおらん。それに気づかぬだろう、たとえ聞こえたとしても」
鳴神が誰であるかなんて。
肩を竦めてそう溢す千早に嗜めた土方も口をつぐんだ。
奏は知らない。
知らなくていいと、彼が望んだから。
知らぬ方がいい、と。
彼は冷たく暗い牢の中で己の罪を償っている。
神は人の世に干渉してはならない。
その理を曲げてしまった償いを。
だけど、彼は後悔していない。
彼女の大切なものを守り通すことができたのだから。
彼は甘んじてその罰を受けていた。
たとえ、彼女に自分は死んだと伝えられようとも。
「彼はこうも言っていた。後悔はしていないけど、傍にいられないのは辛い、とな。お前達は幸せ者だな」
「でも、誰よりも彼は奏の傍にいた」
「ほんの少しの僕にしてみれば幸せなのはどっちだか分からないよ」
珠樹が、沖田が、彼を羨む。
今に優越感を抱こうと、それができないからなおのこと。
彼がこれからを望もうとできないように、自分達もこれまでを望むことはできないのだから。
「馬鹿じゃない?」
消沈している二人にレオンから情け容赦ない声がかけられた。
「僕からしてみれば、まだ彼を越えられるチャンスがある君達の方が断然幸せに決まっているでしょ。そんな事言うのはやめてくれない?チャンスすら尽く奪われてる僕が惨めになる」
レオン自身だって、伝えたい思いはある。
けれどそれが叶うことはない。
それはどうしようもない事実だった。
銀の髪の少女が側に置くのはたった一人、あの黒髪の青年だけなのだから。