誠─紅き華は罪人に祝福を与う─
奏が取り出したのは匂袋だった。
「それは?」
「芹沢さんからもらったものです。大切な、宝物」
両手で大事そうに包まれた匂袋は当然ながらもうなんの匂いもない。
沖田はチクリと胸が痛んだ。
なんてことはない。
…………………嫉妬だ。
「………………奏ちゃんって芹沢さんのこと…」
「好きでしたよ」
「………………」
「恋愛感情ではなく。何て言ったらいいんでしょうね。………似てたんですよ」
「似てた?」
奏は苦笑し、匂袋を見つめた。
「昔、いたんですよ。里に。みんなの憎まれ役が。でもその人は本当はすごく優しかった。たぶん誰よりも里のことを思ってくれていた。私はその人のことが大好きだった」
「…………その人は?」
「………………………」
奏は静かに首を振った。
「……ごめんね」
「いいんですよ。里が滅ぼされた時だそうです。逃げ遅れた子供達を守るために…」
「奏ちゃん、もういいよ」
もういいから。
もう思い出さなくていいから。
だから………泣くのを我慢しないでよ。
分かるんだ。
さっきの涙は引いていたとしても。
心が、叫んでる。
心の中にはまだ入らせてくれないなら、せめて。
今の気持ちを表に出して。
「僕しかいないから、泣いてよ。思いっきり」
「沖田さん、痛い」
ぎゅっと抱きしめる腕から逃れようとする奏を沖田は決して離そうとしない。
返って抱きしめる強さは増すばかりである。
「奏ちゃん、泣いて」
「もう泣きません」
「嘘。僕が来なかったら泣いてたでしょ?」
「泣きません」
奏は意固地にそう言い張った。
瞳は揺れているというのに、どうしてその言葉、信じられようか。