クリム童話
必死に説得しようとする赤ずきん……じゃなくて赤に対し、母も負けてはいなかった。
「いーえ!貴方は赤ずきんよ!私譲りの赤い髪に深紅の瞳。しかも、名前は赤ときたら、赤ずきんになるほかないでしょ」
「名前は母さんが決めたんだろ!」
「あれ~、それもそうね」
母のボケに付き合わされ、自然とため息が溢れる。
「あ~、ため息つくと、幸せが逃げるぞぉ」
呑気な母に、母さんのせいだよと心のなかで悪態をつく。
なんやかんやで、母からは逃げられず、せめてもの願いで頭巾からスカーフに変えてもらった赤であった。
「じゃ、行ってくるよ、母さん」
「行ってらっしゃい」
母に見送くられながら、家を出ようとしたとき、母が「あっ!」という大声を出すので思わず赤も止まってしまった。
「何!?どうしたの?」
「言うの忘れてたわ。最近この辺りに現れては、可愛い子ばかりを襲う狼が現れるらしいから、気を付けてね」
心配そうに言った母に、赤は静に問いかけた。
「母さん」
「何?」
「その狼って、可愛い子を襲うんだよね?」
「ええ、そうよ。だから、気を付けてねって言ってるじゃない」
母の脳内には、可愛い子の中に自分が入っていることが、何故か悲しくなる赤。
「男としての何かが崩れかけてる気がするよ…」
まるで何かを悟るかのような目で、ぼそりと呟いたその台詞は母には届かず。
「気を付けるのよ~!お祖母ちゃんによろしくね~!」
背中で母の明るい声を受け止めながら、祖母の家に向かうのであった。