お嬢様重奏曲!
 刻羽の頭に手を起き、魔力を流す事五分。玉の汗を流しながら、そっと司は手を離した。
「さぁ。目を開けてみてよ。刻羽さん」
「ん」
 司の言葉に従い刻羽はゆっくりとまぶたを開けた。
「どうだい? 久しぶりの明るい世界は」
「……………」
 左右を見渡し刻羽は司を見つめる。
「………えっと。刻羽さん?」
 魔法は成功したはずである。失われた神経と感覚を魔力で再生させ、あるはずの神経の道を繋げ衰退した網膜を活発化させるなど、あらゆる考えられる要因を考慮したのだ。
 今は瞳孔の動きから見て、完全に見えているはずである。
「あの……司君」
「な、何でしょうか?」
 固唾を飲み込み神妙な面持ちで聞き返す。
「どうして司君が女の子の制服着てるの?」
「へ? ……あっいや、これは木の葉さんが…って今」
 司の考えを察したのか、満面の笑みを浮かべ頷く。
「うん。見えるよ。司君の姿も顔も」
 刻羽の言葉にクラス全員が沸き上がる。
「よ…良かった」
 思わずその場にへたりそうになったが、何とか自制する。
「ありがとう。司君。あなたのおかげで、目が見えるようになったよ」
「いや。俺は手伝いをしただけだし」
「それはどういう事なんですか?」
「せやで。魔法の力で治したんと違うん?」
 薫と美琴の疑問に感じるのは当然だろう。
「魔法は万能じゃないんだ。だから視覚に必要な神経や感覚が完全に死んでたら、俺でも治せないんだ」
「それでも素晴らしいと思います。お医者様でも治せなかった江崎様の目を治したのですから」
 咲枝が司を尊敬の眼差しで見つめる。
「ありがとう。咲枝さん。さて刻羽さんの目も見えるようになったし、もう一つの用事も済ませなくっちゃ」
「もう一つの用事、ですか?」
「……薫さん。この学園が襲撃されてるの忘れたの?」
「あっ! そうでした」
「と言うわけだから」
 司が腕を振るうと、制服が一瞬にして黒いロングコートとパンツへと変化したのだ。
 つまり物質構造と構成を組み替える物質変換の魔法を使ったのだ。
「後の事は俺たちに任せておいてくれ」
 力強くそして優しく微笑んで見せた。
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