お嬢様重奏曲!
 二人の前にはいつの間にか、一匹の銀色の毛並みを持った狼が立っていた。
「この狼がこの土地の主なのですか?」
 真夜は銀狼の放つ殺気で動けず、司に視線さえ向ける事さえ出来なかった。
「……いや。違うな。ここの土地神にしちゃ神格が上過ぎる」
「ではなぜ彼はここに?」
「おい! てめえ!」
「ちょっ! 御影様! 何を」
 相手は堕ちたと言っても土地神なのだ。司のきなりの暴言に、真夜は動揺した。
「……なんだ、人間」
 しかし銀狼は別に気にした様子もなく、佇む。
「どこの誰に召喚だか使役されたのか知らないが、お前……ここの土地神を取り込んだな!」
「ほう? よく分かったな。人間風情が」
「それは本当ですか? 御影様」
「ああ。見た感じこの土地の地脈は安定してるし、落ちてた供え物も新しかった。これだけ信仰されてりゃ、堕ちるほど力は衰えないはずだ」
「…………そ、そんな」
 あまりのショックに真夜は一歩後退する。
「力を、強さを求めるのであれば、当然の手段であろう」
「ざけんな! 強さってのは力のでかさで決まるもんじゃねえ!」
「それはお前も力を持っているからだ。そこの女がさて同じ事を言えるのか?」
 銀狼はにたりと笑う。
 司は真夜を見ると、恐怖からか、体を震えさせていた。
「御影様。やっぱり私には無理です。力もなく強くもない私なんて」
 どうやら銀狼の言霊に、飲まれてしまっているらしい。
 元々自分に自信を持てずにいる性格である。銀狼はそんな心の弱さに付け込んだのだろう。
 しかし、と司は思う。
「真夜ちゃん」
 司はなるべく優しく真夜に語りかける。
「強さの意味ってなんだろうな?」
「え?」
 突然の問い掛けに真夜は初めて司の顔を、見上げた。
「まぁ確かにあいつは強いだろう。あいつを強いって思うのは分かる。じゃあ俺たちもあいつと同じ強さだと思うかい?」
「………それは」
 司の顔を見て、銀狼を見る。
「…………違います!」
 真夜の表情から段々と恐怖が消えていく。
 そう真夜はただ宗家や分家の次期当主だから、憧れたわけではない事を思い出した。
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