お嬢様重奏曲!
「司、おるか?」
 ドアの奥からひょっこりと美琴の顔が覗いていた。
「そういう事はドアを開ける前にしろよ。まぁせっかく来たんだ。三人とも上がれよ」
「あはは……やっぱりばれてましたか」
「さすがは司様ですね」
 美琴の後ろに気恥ずかしそうに、薫と咲枝が顔を見せる。
「邪魔するで……ってなんやこの部屋。めっちゃ散らかってるやん」
「ん? ああそうだな」
 美琴に言われ初めて部屋中に地図や海図、書物などが散乱している事に気が付いた。
「もしかしてお仕事関連ですか?」
 薫は足元に気をつけて、そっと部屋に入る。
「まあね。資料は多いに越した事ないから」
「そんなん魔法でパパッとやったらええやんか」
 美琴はお構いなしにベッドの上に座り込む。
「魔法とは魔力と知識そしてイメージからなるんです。つまり知識がなければ魔法は使えません。司様が様々な知識をお持ちなのは、それ故です」
 咲枝は玄関の側で立ち往生していた。
「まっ。そういう事だ。魔法って言っても万能じゃないって事さ」
「なんでやの? 司は結構反則気味に万能やけど」
「イメージの問題だ。じゃあ聞くけど、絶対とか無限とか永久とかイメージ出来るか? 後何も無いとこからポッとなんかが誕生するとか」
「出来へんな。漠然となら出来るけど」
「漠然では駄目だから万能じゃないんだよ。魔法は魔力をエネルギーにして、それなりの知識と確固たるイメージで完成するんだから」
「なんや。魔法ってのも意外と面倒なんやな」
「ですが、逆を言えば魔力・知識・イメージの三つが揃っていれば、何でも出来ると言う事です」
 咲枝の言葉に美琴と薫は固唾を飲む。
「そ、そう考えると司さんって凄いんですね」
「意外とチャオより頭がいいんと違う?」
「まあIQ値が高いからと言って天才だとは、限らないって事さ」
 ここにきて薫たち三人は改めて、司に尊敬の眼差しを向けたのだった。
「そ、それよか俺に用事でもあったんじゃないのか?」
 その場の空気に耐え切れず、司は強引に話題を変える。
「あ。そうでした。すっかり忘れてました」
「司様に御頼みしたい事があるのです」
「俺に頼み事?」
「せや。ウチら今困ってんやんか。助けてくれへん?」
 三人の視線を受け、司は嫌な予感がした。
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