お嬢様重奏曲!
「なあ? ところでウチ少し思ったんやけど」
 食事会もあらかた終わったところで、ふと美琴が口を開く。
「どうしたの? 美琴」
「いや、さっきから気になってたんやけど。ウチらってもう友達やんか」
「うん。そうだけど」
 どうやらまだ一日も経っていないのにも関わらず、司は二人の友達に格上げされたらしい。
「なんで苗字で自分ら呼び合ってるん?」
 妙な事を聞いてくる。と司は首を傾げる。
「二人はともかく俺はまだ会って間もないんだぞ? いきなり下の名前で呼ぶなんて馴れ馴れしいにもほどがあるだろ」
「ほぅ。そこら辺の男よかはマシっちゅー事か」
「何が言いたいんだよ?」
「つまりや。もうウチらは友達なんやから、名前で呼び合ってもええんちゃうかって話しや」
「まあ。俺は好きに呼んでもらっても構わないんだが」
 ちらっと薫を見る。すると恥ずかしさからか、顔を真っ赤にさせ俯いていた。
「なんや薫。照れてるんかいな? ウチなんか初めてっから呼び捨てにしてんねんで?」
 確かに言われてみれば美琴は初めから下の名前で、しかも呼び捨てだったようにも思える。
「ホラッ。司から呼んでやりーな」
 そう言うがいざ呼び捨てで呼ぶには、かなり恥ずかしさが込み上げてくる。
「えっと……薫、さん」
 司に名前を呼ばれると薫の肩がビクッと震える。
「いや。無理する事はないって。俺は気にしてないし」
「そないな事言うて。ほんまは呼んで欲しいくせに」
 司のフォローを美琴はいとも簡単に砕く。
「美琴は黙ってろ。話しがややこしくなる」
「へいへい」
 なぜか分からないが美琴に関してはなんの抵抗もなく、呼び捨てに出来た。
「いえ。それじゃ失礼です」
 薫は司の正面に座り大きく息を吸い込んだ。
「つ…………つつ、司…さん」
 顔を真っ赤にさせて勇気を振り絞る薫の姿は、妙に初々しかった。
「やっぱ薫は可愛いな。ウチがもらいたいくらいや」
「…………おいおい」
「冗談や冗談」
 美琴はケラケラと笑っているが、どうにも冗談に聞こえないところがあるから危ない。
「そ、それじゃ私、後片付けしますね? 司、さん」
 まだ言い慣れていないのかほんのり頬を紅くさせ、薫は食器を片付け始めたのだった。
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