お嬢様重奏曲!
「そう言えば今気付いたんだけど…」
 司は周囲を見渡す。
「なんですか?」
「もしかして薫さんって部屋一人で使ってたりする?」
「なんや。今頃気付いたんかいな?」
「はい。そうなんです。ちょうど私の部屋だけ一人空いてしまったみたいで」
「ホント羨ましい限りやな。せやけど、これはチャンスやで? 司」
「なんでだよ?」
「なんでて。寝込み襲い放題やんか」
「みみみみ、美琴!」
「しねーよ! んな事! 犯罪じゃねーか」
 薫と司、二人揃って顔を赤くさせ怒鳴った。
「なんでやねん。ウチがもし男やったら行くで? 寝込みは男のロマンやんか。まぁばれたら退学やけどな?」
 なんて事を美琴はしれっと言うが、司の場合それだけでは済まない。
 その後に叔母と母親の恐怖の折檻が待っているのだ。
「せやけど、薫の部屋って司の部屋と一番近いやんか? それなりの事はあってもええんとちゃうか? むしろやれ! ウチが許す」
「み〜こ〜と〜」
 薫の怒りゲージが上がってきたのを瞬時に感じ取り、美琴は司の背中に隠れる。
「なんで俺の後ろに隠れる?」
「ん〜なんとなく?」
「あのなぁ」
 肩をガックリと落とし司はため息を吐く。
「まぁ冗談はこれくらいにしとこか。それよか薫の部屋だけやのうて、ウチの部屋にも遊びに来てや? 司やったらいつでもええから」
「まぁ気が向いたらな」
 とは言ったものの美琴の部屋にはもう一人いるはずなのだ。そのためか妙に行き辛いものがある。
「ほな。ウチはこの辺で部屋に戻るわ」
「ん。だったら俺も」
 美琴が立ったのを見計らって、司も立つ。
「もう少しのんびりしてってもいいのに」
 薫が少し詰まらなさそうに司を見つめる。
 そんな表情をされると躊躇してしまうが、さんな場合でもない。
「悪いな。片付けは終わったけど、やらなきゃならない事がまだあるからさ」
「…そっか。それじゃしょうがないよね」
「また今度、な?」
「はい♪」
 どうやら今の言葉で納得してくれたらしい。
 少々名残惜しいが司は薫の部屋を後にする事にしたのだった。
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