お嬢様重奏曲!
 昼頃から演劇の打ち合わせがあるため、少し早い昼食をする事になり、喫茶店をやっているクラスへと二人は向かった。
 さすがに時間をずらしているだけあってか、客の人数もそれほど多くなく余裕で座る事が出来た。
「それにしてもやっぱ普通っていいよな」
「どうしたんですか? 突然」
「こんだけ普通なら、女装せずに済んだんだろうなってさ」
 去年の学園祭で司は女装させられ、クラスの手伝いをする羽目になってしまったのだ。
「そうですか? 私は司さんのメイド服姿、とっても可愛くてきれいだと思いましたけど」
「薫さん。今後の憂いを絶つために一つ忠告しておくが、世間一般の男に可愛いとかきれいは、褒め言葉にはならない」
「す、すみません。私ったら司さんの気持ちも考えずに」
「……いや、まあ。もういいんだけどね」
 カップに入ったコーヒーを一口飲み軽くため息を吐く。
「さすがは金持ちだけあっていい豆を使ってる」
「司さんってよくお砂糖やミルクを入れないで、飲めますね? 苦くないんですか?」
「この苦みがいいんじゃん」
「私は甘くしないと飲めません」
「ふっそれは薫さんがボーヤだからさ」
「あの。私、女の子なんですけど」
「薫さん。一ついい事を教えてあげよう。気にしたら負けだ」
「………えっと」
 これには薫も付いて行けなかったのか、苦笑して見せるだけだった。
「ご注文の方はお決まりですか? ……って御影様に薫先輩!」
「ん?」
「あれ? 真夜ちゃん。そっか。このクラスは真夜ちゃんのクラスだったんですね」
 別に初めから狙って入ったわけではない。司にしてみればある意味、失敗とも言えるからだ。
「お二人ともどうしたんですか?」
「それはですね?」
 真夜に薫は楽しそうに事情を説明していた。
「わあ! 司先輩が演劇ですか。私もぜひ見に行きますね? ちょうど休憩時間ですから」
 やはりこう結果になってしまう。司はこれを怖れていたのだ。はっきり言って知り合いの前で演技するなど、恥ずかしさの極み以外なんでもないからである。
 楽しそうに話し合っている二人を余所に、司はため息を吐きつつコーヒーを飲み干したのだった。
< 174 / 200 >

この作品をシェア

pagetop