お嬢様重奏曲!
 そして今、司の目の前にはある意味、天国と言うか楽園が広がっていたのだ。
 臨海学校では仕事の事もあり、色々と忙しかったためあまり余裕もなかったが、今回は違う。
 プールとは言えさすがはお嬢様学校だけはあり、とても広々としておりそしてそんなプールで女子生徒たちがワイワイキャアキャアとはしゃぎながら戯れている光景は、司にとっても圧巻されるものだった。
 当初は端の一コースだけ借りて泳ぐつもりだったが、どういうわけか合同で使う事になり、つくづくお嬢様の考える事が分からなくなったりもした。
「……俺って実は男として、あんまし意識されてなかったりとか?」
 さすがに更衣室は別だがこれまでの事を思い出してみると、そう思えてしまう事ばかりで司はほんのりショックを受けていた。
「…トホホ。ちょっぴり切ないな。あれ? なんでだろ。涙が出てきて。頑張れ、俺。前を見ろよ。男ならテンション上がるとこだろ」
 プールの片隅で一人切なく泣いているところへ、薫がやってきた。
「司さん。どうしたんですか? こんなところで
「あ、薫さんか。うん大丈夫。泣いてないよ」
「泣いてって、どうかしたんですか?」
「なんでもないよ。それよりもどうしたんだい」
「いえ。司さんが一人ぼっちで寂しそうでしたので」
「……薫さん」
 ささやかではあるが、そんな薫の気遣いに司はジーンと心に響き渡り、思わず薫の手を握ってしまった。
「ちょ、司さん?」
 いきなりの司の大胆行動に薫は、顔を真っ赤にさせていた。
「え? あ! ゴメン」
 司本人も自分の行動に気付き、慌てて手を離した。
「いえ。こちらこそ」
 二人とも顔を俯かせたまま、しばらく見つめあっていた。
 しかしそんな時間もつかの間だった。
「二人ともそない隅っこで何ストロベリってんねん。あんたらがラブいのはみんな知ってんねんぞ?」
 そこへまるで獲物を捉えた猛獣のような目で、美琴がやってきた。
「ラブいって…美琴、お前なあ」
 司はがっくりと肩を落とす。
「美琴。酷いよぉ」
 薫は薫でまだ顔を赤くさせたまま、抗議するも全くの無意味だった。
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