お嬢様重奏曲!
「やれやれ。守れと言われた途端これか。私とて学生の身分である以上、忙しいのだがね」
 薫たちが横を振り向く。そこには無愛想で肩を落とし、こちらに歩み寄る少年がいた。
「おやおや。邪魔が入ったようだな。君は確か魔眼使いの御言君、だったかな」
「これは自己紹介の手間を省いてくれるとは、君はどこぞの手間省き教の信者かね?」
 御言は薫たちの前までやってきて、庇うように立ちはだかる。
 それを見たカオスは肩をすかして見せた。
「まさか君ごときが僕に勝てるとでも?」
「そうだな。私ごときでも勝てるだろう。所詮は分身なのだからな。魔眼で解除する事は可能だろう」
「さすがは分家と言えど御影の性を持つだけはあると言う事か」
「もっと褒めてくれて構わないぞ? もうすぐ宗家と分家の次期当主がやってくるのだからな」
 例え強力な結界を敷いていても、司や美凪ならば察知し結界内に入る事が出来る。そのため御言は時間稼ぎの役目も担っていたのだ。
「本体ならばともかく。分身ならば私でも倒せると言うものだ。なんなら試してみても、構わないんだが?」
 御言の表情からは決して虚勢を張っているようには、見えなかった。
「さて。どうするかね? 分身程度では私の魔眼は打ち破れまい。つまり守りながらの戦いが、こちらには出来ると言う事だ」
「……そうだね。ならば試してみようか。君の実力がどれほどのものなのかを」
「良いだろう。御影御言の名に於いて命ずる」
 御言は右目を隠すように、手を添える。
「カオスの分身よ!消滅するが良い!」
 手を離すと右目が紅くなり、瞳の中に文字らしきものが刻まれていた。
 御言の魔眼が紅く強く輝きを放つと、カオスの体が足元から徐々に粒子となって崩れていた。
「おや? かなり抵抗したんだけどね。やっぱり無理だったか」
「分身程度がご苦労だったね。私程度に負けた事を後悔しながら、本体に戻ると良いだろう」
 カオスの分身は少し肩をすかし、粒子となって消滅したのだった。
「さて。後始末の出来ない怠け者は、次期宗主がやるとして。私はこの結界を片付けるとするか」
 そう言うと御言は上空を見上げたのだった。
< 187 / 200 >

この作品をシェア

pagetop