お嬢様重奏曲!
 慶一郎が指揮を執り行い、大規模な戦闘が始まった。それに伴いカオスが展開させた結界の中から、迎撃用と思われるガーゴイルが次々と現れたのだ。
「けっ。やっこさんもようやく重い腰を上げたってわけだ」
 ギラギラと輝かせ、慶一郎はガーゴイルを見据える。
「さて。俺たちがあの雑魚と結界をこじ開けてやる。お前ら、準備はいいだろうな?」
 慶一郎の視線の先には当然、司たちがいた。
「当然だろ? あいつは俺が倒さなくちゃならない相手だ」
 司の強い意思が漲った目を見て、慶一郎は面白そうに笑った。
「それでこそ俺の息子だ」
 司の決意を確認すると慶一郎は改めて、結界を見上げる。
「そんじゃ、俺も参加するとするか!」
 まるで爆発のような突風を巻き上げ、慶一郎は大きく跳躍した。
 慶一郎が戦線に参加した事により、倒しても結界から無限に現れるガーゴイルの出撃数が、一気にその数を減らしていった。流石は御影宗主だけあってか撃墜した数が出撃する数を上回り始めたのだ。
「この分なら俺たちの出番も、そう遅くはないだろうな」
 自分の父親の戦いぶりを見上げ、司はその反則的なまでの強さに半ば呆れていた。
「なあ? 美凪。そう思うだろ」
「………え? え、ええ。そうね。私もそう思うわ」
 見ると美凪は肩を微かに震わせ、声もどこか上擦っていた。
「…美凪?」
 いつもと雰囲気が違う美凪が気になり、司は側まで近付いた。
「どうした? どっか調子でも悪いのか?」
 心配そうに顔を覗き込む司の顔に、美凪は自嘲ぎみに笑った。
「…ははは。なんだか急に怖くなってきちゃってさ。カッコ悪いよね」
「そんな事ないさ」
 そんな美凪に司は優しく頭を撫でる。
「誰だって怖いさ。正直言うと、俺だって今すぐ飛んで逃げてしまいたいくらいだよ。でもさ」
 司の言葉に美凪は顔を上げた。その表情は怯えたままだったが。
「それ以上に負けられない気持ちが強いんだよね。使命とか義務なんかじゃなくて。大事な人たちを守りたいから」
 司の言葉と意思が美凪に伝わり、その表情が次第に戻っていく。
「そうね…そうよね! ありがとう司。初めっから弱気なんて私らしくないもんね! 待ってなさいよカオス! 泣いて謝っても許さないんだからね!」
 結界に向かって叫ぶ美凪を見て、司は優しく微笑んだ。
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