お嬢様重奏曲!
 この場で浮くのは分かりきっていた。警備員だってスーツなのだ。
 司の服装は一つ間違えばコスプレである。
「俺もスーツにしようと思ったんだが、理事長命令でね? 御影家の正装で来る事になった」
「ウチはてっきりウケ狙いでコスプレで来よったのかと思ったんやけど」
「んもう。だから言ったじゃない。司さんはそんな事しないって。それよりもどうして先に会場に来てたんですか?」
「せやで? 薫なんか一緒に行こう思うてワクワクしてたんやから。なあ? 薫」
「も、もう! 恥ずかしいから言わないでよ。美琴の意地悪」
 薫は顔を赤くさせ頬を膨らませる。
「そりゃ悪かった。俺、仕事も兼ねてるから先に行く必要があったんだ」
 ほらっ、と胸に付けているプラカードと、耳に付けているイヤフォンマイクを見せる。
「そうだったんですか。それなら仕方がないですね」
「それよかもう会場にはある程度集まってるけど、やっぱり司が一番やな」
「ん? 何がだよ」
「何て一番カッコイイ男に決まってるやんか」
「そうか? まぁそこら辺にはあんまし興味ないけど」
「ルックスはええし、スタイルだってスレンダーやけどええ感じに筋肉付いてるし、何より他の男より存在感があるしな」
「そうだね? 向こうの学校の女の子も、司さんの事気にしてる様子だったし」
「そうか? ただ浮いてるだけじゃないのか?」
「意外とそゆとこ鈍感なんやな」
「…ははは」
 美琴の言葉に薫は苦笑する。
「鈍感? 俺が?」
 首を傾げる司を見て美琴はため息を吐く。
「まぁ、そういうとこもまたええもんなんかな」
「そうだね。それに司さんだとなぜか安心出来るし」
「せやな。司はそこら辺の男と少しちゃうよな」
「いまいち分からんな」
 今だ理解出来ない司だったが、耳に付けていたイヤフォンから定時連絡が入る。
「あ、悪い。定時連絡だわ」
 二人に断りを入れてイヤフォンの通信をオンにする。
「こちら御影です。どうぞ」
「ああ言うのは結構イケてへん?」
「うん。そうだね」
 定時連絡を受けている司の表情はいつも学園で見せるものとは違い、とても真剣そのもので凜としていた。
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