お嬢様重奏曲!
 そんな取り留めのない話をしていると、一人の男子生徒がやってきた。
「やあ。そこの君。そんな冴えない男といないで、僕と一緒に楽しまないかい?」
 なんともキザッたらしいやつだった。
「残念ですがお断りさせていただきます。あなたのような礼儀も知らない方とはお付き合いしない事にしてますので」
 桜子の言葉はまさに一刀両断だった。
 心なしか男子生徒の表情が引き攣っている。
「それを言うなら、そこの彼とてそうじゃないか。見てみなよ。あの服。とても社交界に出る服とは思えないよ」
 まあそうだろう。司とてそれは自覚している。
「そういう言動が礼儀知らずなのです」
「僕は有名なバイオリニストにバイオリンを習っているんだよ」
 なかなか懲りない男である。悪く言えば引き際を知らない空気が読めない男なのだが。
「それがどうかして? いくら一流の教師から教えを頂いていたとしても習っている生徒が三流ならばそれまでです」
「なっ! だったらそいつは弾けるって言うのかよ」
「そういう事を言っているのでは」
「まぁ待て。そこまで言われたら、俺だって黙っていられない」
 桜子の言葉を遮り司は椅子から立ち上がる。
「ですが」
「まぁ見てな」
 桜子に有無を言わさず近くにいた演奏者からバイオリンを借りる。
 司がバイオリンを構えると他の演奏者も手を止め、会場を静寂が包み込む。
 そしていざ司がバイオリンを弾く。
 その曲はオリジナルだったが、誰が聞いても一流のバイオリニストが弾いているほどの音色を奏でていた。
 やがて演奏が終わると盛大な拍手が沸き起こる。演奏者たちも楽器を置いて拍手していた。
 司はバイオリンを返し男子生徒の前に立つ。
「仕返しするつもりなら、その前に親父に聞いてみな。御影の人間に喧嘩を吹っかけていいですかってな?」
 二人しか聞こえない声で囁くと、男子生徒は顔を真っ赤にさせてその場を立ち去って行った。
 そして社交界も終わりを迎えようとしていた。
 しかし司は今バルコニーに一人佇んでいる。
 後ろでは両学校交えてのダンスパーティーが行われていた。
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