お嬢様重奏曲!
 近くに駆け寄ってみると結構可愛い女の子だった。
「どうした? 怪我でもしたのか?」
 最初は不審に思っていたのか顔を伏せたままだったが、首から提げているプラカードを見てどうやら安心したようだ。
「…………いえ。大丈夫です、これくらい。頑丈なのが取り柄ですから」
 とは言っているものの足首は赤く腫れており、目には涙を溜め込んでいる。
 これはどう見ても強がりなのだろうが、心配させないようにするためだろう。
 そう思うと不思議と自然に優しい笑顔になっていた。
「その足じゃ歩けないだろ? ちょっと見せてみなって」
「………分かりました」
 どうやら観念したのか渋々赤くなった方の足を司に見せる。
「こりゃ結構腫れてるなぁ。よく我慢したもんだよ。ちょっと触るけどいいかな?」
 女の子は静かに頷く。
 了承を得たところで司は優しくそっと足首に右手を添えた。
 そしてほんの数秒したところで右手を離す。
「どうかな? まだ痛むかい?」
 司が尋ねる。すると女の子は目を丸くさせ驚いていた。
「あれ? 全然痛くないです。さっきは歩けないくらい痛かったのに……ってあっ!」
 慌てて口を押さえたようだがもう手遅れである。
 やはり相当痛かったようだ。まぁ涙を浮かべていたのですぐ分かったのだが。
「そりゃ良かった。ほらっもうすぐ入学式が始まるぞ」
「はい。ありがとうございました」
 女の子は深々と頭を下げ駆け出す。
 その背中を見送りパトロールを再開させようとすると、不意に先程の女の子の足が止まりこちらへと振り返った。
「あ、あの! 私、神楽薫って言います!」
 どうやらわざわざ名前を教えてくれたらしい。ここはこちらも名乗るのが礼儀だろう。
「俺は御影司だ!」
 司が名乗ると薫はもう一度ペコリと頭を下げ、今度こそいなくなった。
「さてっと。俺ももう少し回ったら体育館に向かうか」
 司は気を取り直しパトロールを再開させたのだった。
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