お嬢様重奏曲!
 そしてとうとう茜との勝負の時がやってきた。
 どこでどう広まったのか分からないが、道場の中や果ては外にまでたくさんのギャラリーが集まっていた。
「何なんだよ。この数は。見世物じゃないってのによ」
 それでなくても今回司はどう転んでも悪役なのだ。
「これで俺が勝ったら、その瞬間にこのギャラリーに殺されるな」
 昨日食堂で茜と会うまでは勝機はまるっきりなかったが、あの時出した条件によって一気に勝機が見えたのだ。
「…待たせたな」
 奥から防具に身を包んだ茜がやってきた。手にはそれぞれ面と竹刀を持っていた。
「もう少しゆっくりでも俺は良かったんだが」
 対する司は制服の上着を脱いだだけで、防具は一切着けていなかった。手には竹刀一本しか持っていない。
「それはなんのつもりだ? 私を愚弄する気なのか」
 当然茜は司の姿を見て怒りをあらわにする。
「言ったはずだ。先輩は剣道。そして俺は」
「剣術か」
 司の言葉の続きを茜が先行する。
「まぁいいだろう。条件を飲んだのは私だ。文句は言わない」
 だが明らかに平常心が揺らいでいた。
「さあ。さっさと始めようぜ?」
「ふん。威勢だけはいいようだな」
 茜と司は定位置に立ち互いに対峙する。
「…では始め!」
 立会人である剣道部の顧問の合図により、とうとう試合が始まった。
「たあっ!!!」
 茜が裂帛の気合いを放ち竹刀を正眼に構える。
 対して司は茜の気合いをするりと受け流し、ただ両手を下げ自然体で立っているだけだった。
 周りからすればただ立っているだけにしか見えないが、茜は踏み込めずにいたのだ。
「なるほど。大口を叩くだけの事はある、と言う事か」
 司は一見隙だらけなのだが逆に隙がありすぎて、攻め込む隙がなかった。
「来ないのか? だったらこっちから行こうか?」
「ふん! 安い挑発を。だがあえて受けてやろう」
 気合いと同時に茜は司の懐へと踏み込んで行く。
 それからいくともフェイントを交えながら、攻めるも実践経験においては、司の方がはるかに上回っているため、茜の竹刀は司を掠める事さえ出来ずにいた。
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