お嬢様重奏曲!
「いや〜。こりゃ笑うしかないな。ハッハッハ」
 コテージの前に着くとその大きさに司は立ち尽くしていた。
「ほれっ。司。そないところでボサッとしとらんと、早く荷物を運ばんかいな」
「お、おう」
 美琴に急かされたおかげで、我に帰り三人の荷物をコテージの中へと運ぶ。
「中もこりゃすげーな」
 内装もしっかりしており、最新式のトイレにバスそしてキッチンまで完備されている上に、部屋数も司の予想を遥かに上回っていた。
「なんか俺、現実を再認識させられたって感じだよ」
 口を半開きにして司は中を見回していた。
「そらそうやろ? 薫はこんなんでもかの神楽財閥の令嬢なんやで?」
「美琴、こんなってどういう意味? 司さん。もしかして引いちゃいましたか?」
 不安そうに薫は司の顔を覗き込む。
「え? いや。驚いたのは確かだけど、でかい家には多少免疫があるから大丈夫だよ。薫さんの家には三千院家みたいなガン○ム執事や年齢不詳の完璧メイドとか喋るホワイトタイガーはいないんだろ?」
「えっと……言いたい事はよく判りませんが、確かに喋るトラさんはいませんし、そんな執事やメイドもいません」
「なら大丈夫だ」
「司も随分と危険な事言うな。分かるやだったら一発やで?」
「いいんだよ。直接名前出してるわけじゃないしよ」
「まっええわ」
 ポスンとリビングにあるソファーに美琴が座る。
「とりあえず、疲れて喉も渇いたから、紅茶でも出してや。司」
「は?」
 思わず司は自分の耳を疑う。
「は? やのうて紅茶出してや」
「いや。なんで俺?」
「ええか? 司。ウチらはこれでもお嬢様や。それに比べて司はどうなんや?」
「そんな大層な家じゃねえな」
「せやろ? だったら紅茶煎れるんは当然やん」
「………くっ」
 美琴が言っているのは屁理屈だと分かっているのだが、なぜだか司は敗北感に打ちのめされていた。
「…はぁ。薫さん。キッチンはあっち?」
「あっ。私もお手伝いします」
 背中に哀愁漂わせる司の背中を、薫が慌てて追いかけて行く。
「美琴さを。先ほどのはやり過ぎでは?」
 少し不機嫌気味に咲枝が美琴に尋ねる。
「ん? 司なんてあれくらいがちょうどいいんやんか。嫌やったら断るやろ? せやったらウチかて自分で煎れるわ」
 美琴は笑って咲枝に答えた。
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