お嬢様重奏曲!
 薫が学園へ来なくなってから二日目、司は何度も木の葉に尋ねたが、これは家の都合の一点張りで、相手にしてはくれなかった。
「……はあ。薫さん、今頃何してるのかな?」
「せやな? 携帯も通じへんし」
「何だかぽっかり穴が空いた感じですね」
 美琴も咲枝も学園祭の準備で盛り上がっている中、ため息ばかり吐いていた。
「やっぱこんなんじゃ駄目だよな」
「薫かて楽しみにしてたはずや。こんなんで終わりはあかんやろ」
「……………ですね」
「んじゃ、俺たちだけで薫さんの状況を探ろう。実家に戻ってるのは確かだしな」
 もし誘拐か何かならば司に話が来ているはずである。
「それはナイスアイデアやな」
「決まり、ですね」
「だったら覚悟を決めろよ? これは単なるお節介だ。下手したら二度と会えなくなるかも知れないし、両親に迷惑をかけるかもしれないんだ」
「そんなの関係あらへんよ。ウチは自分がやりたい事をやりたいだけや。これで会えなくなったり嫌われたりしたら、ウチらの仲はそれまでだったてだけや」
「何も出来ないからと言って何もしないと、もっと何も出来ませんから」
 聞くまでもなかった。二人の意思はすでに固かった。
「そっか。これは俺のわがままだ。例え嫌がろうとも力づくで引っ張り出す」
「当然やな。薫がいないと少し寂しいし」
「薫さんは私の大切なお友達ですが、優しくするだけが友情ではありません」
「決まりだな。俺も自分に出来る限り情報を集める」
「ほんじゃこないなところで油売ってる場合じゃないやんか」
「ですね。もしかすると時間が過ぎるほど、チャンスがなくなるかも知れませんし」
「よっしゃ解放だな」
 三人は互いに頷き合い教室を後にした。
 司がまず向かった先は木の葉のところだった。
 司が尋ねる度に家庭の事情だと言うのだから、薫の状況を知っているはずである。
「失礼します」
 理事長室のドアをゆっくりと開ける。
「やっぱり来たようね? 司」
 そこには落胆の表情を浮かべた木の葉が一人、ソファーに座っていた。
「もう一度言うわよ。これは神楽家の問題なの。御影が出る幕はないわ」
 木の葉の強く鋭い視線を司は真っ直ぐに受け止める。
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