お嬢様重奏曲!
 司は思う。優しい薫の事だ。どちらを選んでもどちらを傷付けてしまうと、考えているに違いないと。
「薫さん。今は他人なんてどうだっていいんだ。これは君自身の事なんだから」
「でも」
「薫さん。皆で泊まりに行く前の日に俺が言った事覚えてる?」
「それは………」
 忘れるはずなかった。あの一言でどれだけ救われた事か。
「私、私は……」
 薫は両手を強く握りしめ声を絞り出す。
「……………いです。私、司さんや大好きな友達と一緒にいたいです!」
「薫、お前」
 祖父は驚きこちらを見ていた。
 それも当然だろう。これまで祖父には逆らった事など、一度もなかったのだから。
「君の気持ちは聞き入れた。俺はこれより守護者として君を守ろう」
 司は優しくそして強く薫に右手を差し出す。
 薫はソファーから立ち上がり、司の元へと歩み寄っていく。
「待て。待つのじゃ。薫」
 総帥の言葉に一瞬だけ薫の歩みが止まる。
「ごめんなさい。御祖父様。わがままな私をお許しください」
 薫の瞳から涙が零れ落ちる。
 そして再び薫は前へと進む。
「悪いな。総帥。彼女にまだ時間を与えてほしいんだ。自分の未来を決めるための時間が」
 薫が隣まで来るが、司は動こうとしなかった。
「………ふん。今回はわしの負けじゃ。好きにするがいい」
「ありがとうございます。それじゃ行こうか? 皆がいるところへ」
「はい」
 そこでようやく司は回れ右をして薫と共にリビングを抜け、そのまま屋敷を後にした。
 そしてセレスティア学園に帰る途中の道で、薫がそっと囁く。
「…ありがとうございます。司さん。私だけではとてもこれほどの決断など出来ませんでした」
「礼なら美琴と咲枝さんに言うんだな。二人が俺に依頼をしてくんなきゃ俺も動けなかったし」
「そうですか……美琴と咲枝さんが。でも依頼って何ですか? 私を助ける事ですか?」
「依頼内容? それは薫さんの自由の奪還さ」
 それを聞いて薫は衝撃を受けた。
 これほどまでにも自分の事を気にかけてくれているとは、思ってもみなかったからである。
「いい友達だよな? 美琴も咲枝さんも」
「はい。それと司さんもです」
「そっか? そう言われると照れるな」
 司は照れ隠しであさっての方に顔を背けたのだった。
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