お嬢様重奏曲!
 振り上げた右手をゆっくりと、閉じようとしたその時だった。
「駄目です! 司さん」
 薫の声に司の手の動きが止まる。
「私、司さんが冷たい声で怖い顔で魔法を使うところなんて見たくありません!」
「……薫さん。だけどこいつは」
「司さんは強くて優しい人です。いつもの司さんだったら魔法を乱暴にしません。それに司さんは言いました。俺は守護者だ。って。だったら誰かを守るために魔法を使ってください! 今の司さんなんて私見たくありません!」
 息を切らせ肩で呼吸している薫を見て、司は思う。
 薫の言っている事は世界を知らない温室育ちの甘い理想論である。
 当然、司も美凪も世界が優しくない事は知っている。たが。と司は思い右腕を下ろす。
「俺は守護者で、こんな俺は見たくない、か」
 司から放たれていた魔力と殺気が消え去る。
「確かに俺たちの力は守るための力だったよな」
 美凪の体がゆっくりと地面に降ろされる。
「立て。美凪」
 司に命令され、美凪はよろよろと立ち上がった。
「確かに今の俺は御影の次期当主じゃなく、セレスティア学園の生徒だった。だが、お前がしようとした事は俺は許さない。だからお前には違う罰を与える」
「司さん」
 心配そうに見つめてくる薫を、司は笑顔で制する。
「お前にはこれから甘い世界を堪能した後、ある意味一番辛い罰を受けてもらうから覚悟しろよ」
 司の表情がいつもの優しい表情に戻っていた事に、薫はホッと安心したのだった。
「それで? 最初はどこに行けばいい?」
「ほっほう? 随分余裕じゃないか。お前だって高校の学園祭は初めてだと言う事は知っているのだぞ」
「うっ…」
 司の悪そうな笑顔を見て美凪は一歩後ずさる。
 それからと言うもの、司たちもまだ回っていない場所を見て回り、司は両手に花で堪能したのだった。
 そして薫の休憩時間が終わるのを見計らい、司たちは自分たちの教室へと美凪を案内した。
「………うわ。本当にやってるよ。メイド喫茶」
 司たちの教室の前で美凪は呆然と立ち尽くす。
「んなとこに突っ立ってないで、早く中に入れよな。他の人の邪魔になるだろ?」
「あ、うん。ごめん」
 司の言葉に従い美凪は流されるままに、メイド喫茶の中へと入って行った。
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