十二の暦の物語【短編集】
『はい…』

助手席の背もたれに片腕を押し当てて私と顔の距離を縮められた

『はっ…隼人…っ、先輩…?』
「…【先輩】付けんなつったろ…?」

焦って、焦って、つい昔の呼び名で呼んでしまって注意された
その声が耳元で囁かれる低音の大人な声だったから…私の体温は急激に上昇した

『…っ』
「…何だよ。緊張してんのか…?」
『い…っ…いえ…』

私がそう答えると、静かに覆いかぶさってキスをされた

優しくて、熱くて、丁寧で、長くて、何度しても私の体温を上昇させるキス




「――…」

唇が離れた
目を開けると、私の視界から遠ざかる顔は少し名残惜しそうで、寂しそうだった
その顔もまた私をドキドキさせて…
私、恋愛経験に乏しいのに…



長い沈黙

暗い車の中には、静かな雨音しか響かなかった
< 100 / 190 >

この作品をシェア

pagetop