十二の暦の物語【短編集】
◇ ◇ ◇ ◇
じゅっ

花火の先に火を移すと、一瞬音が消えて綺麗な花火が飛び出る

「お、葉月の綺麗」
『でしょーっ』
「火ィちょーだい」

屈んであたしの花火の先に自分の花火の先に合わせて火を移す
あたしの黄色と青の花火に孝のオレンジの花火が混ざって綺麗な色になる

「うっわ、この花火煙てぇっ」
『あ、でも火力強いから字いっぱい書けるよ!!』

地面の近くに花火をかざして移動させると、黒いコンクリートに白い線が浮かんだ

「おー。俺地面に字ィ書くの久しぶりー!」

『何て書くー?』
「んー?とりあえず優勝祈願」

そう言ってから、まだまだいっぱいある花火の束から花火を10本取り出して次々と火を移して文字を黙々と書いた

『…』

何、その真剣な顔
まるでピッチング練習してる時みたいな異常な集中力を発揮してる横顔
何にでも適当にやらないんだ。孝は

10本の花火を使い切った後、地面にはヨレヨレの白い線でハッキリ

【☆水校野球部優勝☆】

「どーよ?すげーだろ」
『…よく書けたじゃん』
「この道通った人がさぁ、コレ見て水校応援してくれたら凄ぇよなぁー」
『只のイタズラにしか思わないんじゃないの?』
「いやー。分かんねぇよー?」

その自信は何処から来るんだか
でも、ウチの学校を応援する人が居なくても、あたしは絶対に孝と野球部を応援するからね

孝はまた10本花火を取り出して火を付けた
暗闇に浮かび上がった明るい光に照らされた満面の笑顔で

「葉月のインハイ制覇も書いてやろっか?」

『…うん』

また、真剣な顔で地面に書き始めた

遠くの公園の山から、大和の大声が聞こえた

「おーーいっ。打ち上げ花火すんぞーーっ!!」
「おーっ…って五月蝿ぇよな(笑」
< 131 / 190 >

この作品をシェア

pagetop