十二の暦の物語【短編集】
隣の孝を見ると、その衝動で小さな火の塊が落ちた
孝は線香花火を見つめたまま、静かな声で喋り続けた

「俺、打つよ?準決も、決勝も」
『うん…』
「お前の為に、打つよ」

『え…っ』

「な…何だよ…」

暗くて分かりにくいけど、照れたような顔でバツが悪そうに次の線香花火に火を付ける

「…お前もやれよっ」

無理矢理1本押し付けられた

「俺の顔、今赤いから、見んな」
『うん…』

火を付けて、オレンジの火花を見つめたまま、孝の言葉を聞く
隣り合って屈んで、絶対に顔を上げないで花火だけを見つめる

「俺…ホームラン…打つ…そんで…優勝して…」
『じゃあさ…あたしも…走るよ』

「…おう」

『インハイとか…速い人ばっかりだけど…孝が甲子園狙うなら…あたしも100で優勝狙う』

「…頑張れよ。汗まみれの陸上部」
『そっちこそ…泥まみれの野球部』
< 133 / 190 >

この作品をシェア

pagetop