十二の暦の物語【短編集】

「…」
『…』

教室が皆の声で騒がしい今日
この2人の周りだけ静かで、ガムテープをビーッとやり続ける音だけ



突然、ケータイの着信音がした

『…一ノ宮?』
「えっ?」
『ケータイ、鳴ってるけど』
「えっ、あっ…有り難うございますっ」

いや、そんなかしこまらなくてもいいけど…
急いでケータイを取り出してメールを見ていた
メールの返事を打つ指の動きが1つ1つ丁寧で、あまりにも現代男子高生とは思えなかった
面白くて、ついからかってみた

『…彼女?』
「はっ!?」

ハッとして肩を強張らせながら顔を上げた
その反応、ちょっと可愛いな

『彼女から?ソレ』

ガムテープで、ケータイを指した

「ちっ、違いますっ。てゆーか、彼女なんてできませんっ」
『そ、そっか…』

彼女居ないんだ。別に顔悪くないのに
ぶっちゃけ、あたしも彼氏できたこと無いんだけど…
友達いわく、あたしは【喋らなければモテる】ヤツらしい
でも、あたしが喋らないなんて無理
ちょっと安心してる自分に、ビックリした
あたしそんなに一ノ宮が好きなんだ?

『あ、てゆーかさ、さっきの着メロ』
「あっ…結構昔のなんだけど…好きなんだ」
『あたしもー!』

つい嬉しくなって、大声を出した

クラス中の(ニヤニヤした)視線が背中に突き刺さった

「あ、あの…」
『ご、ごめん…』

もう2、3年も前になるヒット曲なんだけど
テンポのいいメロディと
ボーカルの綺麗な声と
凄い深くて大好きな歌詞
あたし以外、もう誰も着メロになんてしてなさそうだったのに

『あたしもそれー。イイよね』
「ほ、ホント!?桜井さんも?俺、このグループの曲だったら全部好きなんだぁ」
『あたしも好きーっ。CD全部持ってる?』
「あ。はい!持ってる^^」
『じゃあさ、ちょっと借りたいアルバムあるんだけどさ…』
「全然大丈夫ですっ。明日持ってきますっ」
『マジで?やった』
「好きな人あんまり居なくて、桜井さんが居て良かった^^」
『あたしも嬉しいー♪』
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