十二の暦の物語【短編集】
「ねー神楽センパイ」
『何?』

自転車で街中を走っていると、和泉君が前を向いたまま話しかけてきた

「さっき教室に居たセンパイ達ってさ、何?」
『え…渡辺君とか?…友達…だよ?』
「ふーん…」

それを言うと、和泉君が急に黙った

『和泉君…どうしたの…?』

「明日から、修学旅行だっけ」
『え?うん。そうだよ』
「あんまりさ、男と喋んないでね」
『え…どうして?』
「だって…心配だし」

車の数が少なくなって、電灯も少ない狭い道に入った
あと、2つ角を曲がれば私の家

「センパイ、すっげえモテるから…修旅なんて行ったら絶対誰かに告られるし」
『そ、そんなこと無いよ…』
「そんなことあるよ!だから…俺すっげ心配」
『私…和泉君以外は好きにならないよ?』

角を1つ曲がった

「……マジ?」
『ホントだよっ。私絶対和泉君以外は好きにならないっ』

ききっ

いきなり、自転車が止まった

「降りて」
『え…っ』
「もうちょっとで3日間も会えなくなるから、ちょっとでも喋ってたい」

和泉君が帽子で顔を隠しながら言った
和泉君は本気で言っているのに、私は何だか笑ってしまった
可愛いなあ。和泉君

『…うん^^』

自転車から降りて、自転車を押して歩く和泉君に並んだ

『和泉君』
「……ん…」
『私だって、心配なんだよ?学年が2つも違うと、一緒に学校に居れるのは1年だけだから』
「……」
『それに、和泉君も来年はどの高校に入るのか今じゃ分からないし』
「…俺っ」

がしゃんっ

自転車の倒れる音がした


『わ…っ』

小さくても、私よりはとっても大きい和泉君の胸に、顔が押し付けられていた

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