十二の暦の物語【短編集】

受験生達のクリスマス

かりかり……

物があまり置いてなくて
シンプルな家具ばかりで
綺麗に整頓された部屋には
2人のシャーペンがノートに文字を書き込む音と、消しゴムを机に置く音しか聞こえない


『……』
「……」

2人きりの空間なのに、完全に自分の世界に入って問題集と格闘する


『……』

…ぁれ、答え合わない
…どこで間違ったんだろ…
指で式をなぞって、計算を確かめる

………分かんない…


『……ねえ』

「…何」

目の前で黙々と問題を解き続ける
最近彼氏になった(はず)の男の子に声をかけると、顔も上げずにぶっきらぼうに答えた

『分かんないんだけど…教えてくんない…?』
「どれ」

ノートを彼に向けた
少しだけ顔を上げて、彼がノートを受け取った
黒ブチの四角いメガネの奥で、あたしの書いた式を目で追った


「……お前、高3にもなってこんなので前違えんなよ」
『え、嘘』
「これ」

立ち上がって、隣に回った
少し傾けられたノートを覗いた
黒いシンプルなシャーペンの先で、あたしの式を指した

「代入間違ってる。お前自分でxって書いてあるのにyになってる」
『…ぅわ。ホントだ…ありがと…』


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