十二の暦の物語【短編集】
紙コップは2人の足元に落ちて
跳ねた甘酒が少しだけ私のブーツにかかっていた

無言で境内に背を向けて、視界一杯に広がる田んぼと細い土の道ばかりの田舎道を眺める
少し寒くなって、私が少し指を袖の中に入れようとすると
強引に腕を引っ張られて真っ黒のダウンのポケットに突っ込まれた

ドキっとして和哉を見上げると
さっきの真っ赤な顔はもう消え去っていて、カウントを数えだした無邪気な顔で

「俺等、キスして年越ししちゃったなぁ」

なんて全く曇りの無い声、顔で言われた

そんな事さらっと言われたら…恥ずかしくて返せないから…

『…うん…』

ポケットの中で
細くて、少しゴツゴツしていて
私よりも数倍大きい掌が私の手を強く握り締める

本当は少し痛いんだけど、今くらいは我慢しよう


『Happy new year...』





I love you


付け足したかったけど、私にそんな恥ずかしい事言える訳ありません

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