十二の暦の物語【短編集】
「はい」

『……っ』

瞳から一粒、涙が零れた
先輩を、そのステージから引き摺り下ろしたくて
今すぐ走り出したくて
「卒業しないで」って言いたくて
先輩との思い出がよみがえって来ちゃったりして

差し出された卒業証書を丁寧に受け取る
そして、深く頭を下げて校長先生に背中を向けた

『…ッ…』

目が合うんじゃないかと思って、先輩を凝視した
でも、先輩は真っ直ぐ前を見据えて席に向かって歩くだけ


あーあ
何期待しちゃってんだろーね
往生際悪いぞ
先輩は、誰にでも優しいじゃん

廊下で肩がぶつかって謝る時も

部活で構えや打ち込みを教えてくれる時も

「おめでとうございます」って試合に勝った度に言ってくれるのも

「お疲れ様」って負けても一々声かけてくれるのも

全部

全部

皆にも。だよ

そうゆう先輩。そうゆう人だよ

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