十二の暦の物語【短編集】
照先輩が、あたしのすぐ傍まで来た

「…ぁ、弥生ちゃん」
『照先輩…』
「今まで有り難う。これからも頑張ってね」
『…はい…』

先輩はあたしに背を向けて歩き始めた

――今



今、言わなきゃ…




『照先輩っ!!』


「はい?」

先輩が振り返った

先輩の所に走る

『あのっ…その…どれでも…どれでも良いんで…』


『ボタン…貰えませんか…?』

「え…?」


『好き…なんです…照先輩の事…』

気づいたら、べらべら口が動いてた

『入部してからすぐに先輩の事好きになって…
 指導してもらってる時とか……緊張して上の空だったりして…
 試合で勝てば先輩に褒めてもらえるって思って、毎日毎日頑張って…それで気づいたら県ランクにまで行ってて…
 いつも廊下で肩がぶつかって謝っただけでも先輩と喋れた。ってテンション上がってて…
 今日なんて1人で泣いてて……そのくらい…好き…です…』

「弥生ちゃん…」

『髪…この髪だって覚えてないかもしれないけど…先輩が1年の時』


先輩の手が、あたしの髪を撫でた




「やっぱり、自然なウェーブの方がいいですよ。こっちの方が好きです」

『ぇ…』

「覚えてますよ。俺、その時相当緊張してたんですよ?」

『ホント…ですか…』
「うん。俺だって弥生ちゃんの事それくらい好き」

髪を触っていた先輩の手が開いた

金色のボタンが1つ、乗っていた

「喜んで。貰ってください」
『ぁ…りがとうございます…ッ』

涙が零れ落ちるのを我慢して、ボタンを受け取った

「それと――」

一瞬ボタンを掴んだ腕を強く引っ張られた





ちゅ
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