雨情物語②<鯉患い>
鯉は麩を吸い込むと、尾びれを水面に残して池に潜りました。
少女がふたたび麩を放りましたが、鯉は上がって来ません。
少女は立ち上がると、ツツジ色の傘を斜めにさして立ち去りました。
「あのぅ…、失礼いたします」
わたしは錦鯉の彼に声をかけました。
――― なんだ?
「先ほどの少女とはどういった…」
――― 君に関係ないだろう。
鯉が、苛立たしげに背びれを揺らしました。
「好きな人ができたとか…」
――― 関係ないと言っただろう!
鯉は、池のそこにある石の陰に入ってしまいました。
背中に哀愁を漂わせるのは、人間だけではないようです。
「失恋とはつらいものですね」
鯉は、ただ水の中で尾びれを揺らすばかりでした。
雨情物語 <鯉患い>
少女がふたたび麩を放りましたが、鯉は上がって来ません。
少女は立ち上がると、ツツジ色の傘を斜めにさして立ち去りました。
「あのぅ…、失礼いたします」
わたしは錦鯉の彼に声をかけました。
――― なんだ?
「先ほどの少女とはどういった…」
――― 君に関係ないだろう。
鯉が、苛立たしげに背びれを揺らしました。
「好きな人ができたとか…」
――― 関係ないと言っただろう!
鯉は、池のそこにある石の陰に入ってしまいました。
背中に哀愁を漂わせるのは、人間だけではないようです。
「失恋とはつらいものですね」
鯉は、ただ水の中で尾びれを揺らすばかりでした。
雨情物語 <鯉患い>