哀しみの音色
 
俺は莉桜の歌声に耳を傾け、黙ったまま海を眺めていた。


やがて歌が止まる。

それと同時に、莉桜の肩を抱き寄せた。


「……いい歌だな……」
「……ん」
「俺を想って作ってくれた歌?」
「……知らない」


照れ隠しなのか、莉桜は正直に答えてくれない。

だけどちらりと覗き込んだ莉桜の横顔は、少しだけ照れた表情で海を見つめていて、俺はそれだけで充分だった。


「莉桜」


名前を呼び、振り向く莉桜。

その唇に、そっとキスを落とした。



「……ありがとな」



唇を離して、至近距離のまま莉桜を見つめる。

莉桜は黙ったまま、俺を見つめ返していた。
 
< 159 / 164 >

この作品をシェア

pagetop