哀しみの音色
5章 彼女の笑顔
莉桜は何も言わず、手を引く俺についてきた。
そして再び、俺の家へ戻る。
「とりあえず、熱下がるまではおとなしくしてて」
「………うん」
まだ微熱が残っている莉桜。
俺は莉桜に着替えのシャツを渡すと、ベッドへと横にならせた。
今日は幸いにも土曜日なので、大学もお互いにない。
だから今日は一日、莉桜の看病をしようと決めていた。
「ねえ……」
「ん?」
しばらくすると、横になったまま莉桜が声をかけてきた。
「樹の話……聞かせてよ」
「え?」
「あたし、樹のこと、何も知らない」
「……あー」
そう言われて、正直困った。
聞かせてと言われても、俺は特になんの変哲もない人間で、面白いような話なんて一つもない。
それを察した莉桜は、さらに言葉を続けた。
「なんでもいいの。
好きな食べ物…好きな色……好きな動物……。
本当になんでも……」
それでも少し困ったけど、俺は莉桜の言うとおり、自分の好きなものから自己紹介のように始めた。