哀しみの音色
 
「あ、えっと………ごめん」


俺は、どうしたらいいのか分からず、とりあえず告白を覗いてしまったことを謝った。

だけど彼女は、まるで幽霊でも見ているかのように、俺を凝視したまま動かない。


「あの……大丈夫?」
「……え?」


思わず近寄って、顔の前で手をかざしてみる。

それでようやく彼女の焦点もあった。


「あ、……っと……ごめん」
「え?」


今度は、彼女が俺に謝った。

とくに謝られる理由もないので、つい聞き返してしまう。



ここから恋が発展したり!?



なんていう俺の妄想は妄想で終わる。


彼女はすぐに身をひるがえして、俺のもとから立ち去ろうとした。
 

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