哀しみの音色
ま、人生そんなもんだよな。
と思った時だった。
「ねえ」
彼女は、振り返って俺を見ている。
「はいっ」
思わず敬語で答えてしまう俺。
「あんた、名前なんて言うの?」
「え?……相沢…樹、だけど……」
「……そっか」
俺の名前を聞いた瞬間、ほんの少しだけ彼女は暗くなったように見えた。
「そうだよね……。当たり前……」
「なにが?」
聞こえるか聞こえないかくらいの、小さな声でつぶやく彼女。
なんだかその声がとても意味深に聞こえて、つい聞き返してしまった。
だけど次に顔を上げた彼女は……
「なんでもない」
もう、何も触れることが許されないような、冷たい瞳をしていた。