何度でもまたあなたに恋をする
「何、すんだよ」

背けたとは言え、頬にはガッツリ触れる唇。それだけでもあたしの心は動揺しまくりだというのに、これ以上何をしようと?それにあたしはちゃんと聞いた。だからペナルティも彼女の件もなしなし。すごく不機嫌そうでちょっと目の前の清水さんは怖いけれど負けてられない。

「何、すんだよじゃないですよ。聞きましたよ。お姉ちゃんから全部。派遣なんて嘘らしいじゃないですか。最初から清水さんがお姉ちゃんに仕事の手伝いを頼んだんですよね?だからペナルティも彼女の件もなしですよ」

「なんだよ、凛。そんなことまで言いやがって。まあ派遣のことは嘘だけど普通に考えたら契約違反だろうが。凛が来るはずなのにお前が来るのは」

身体を離し、あたしに背を向け頭をガシガシと掻きながらお姉ちゃんの名前を当たり前のように言う。知り合いだからお姉ちゃんを名前で呼んで当然なのに、なぜだろう。「凛」って言うだけでちくっと胸が痛む。

「春馬。って呼んでたんですよね。あたし。それにこんな風に敬語でもなかった。もっと親しみを込めてあなたと話してた。でも、あなたに失恋して何もかも忘れてしまった。あたし、そう言われてもやっぱり何も思い出せない。あなたのことが好きだったっていうことすらも何も」

「だったら何も思い出す必要なんてねーよ」
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