Kitty love
「それでね──あれっ、せんぱいだっ」



そう声をあげたのは、話の途中で俺に気づいたらしい天然女。

そのことでジャージ男の注意がこちらに向き、パチリと視線が絡まる。

一瞬だけ、そいつの顔つきがきょとんと意表をつかれたようになって──けれどもそれからすぐに、口角が上がった。



「せんぱい、今帰るとこなんですかー?」

「……何やってんの」

「へ?」



普段の明るい調子で話しかけてきた天然女の言葉にはこたえず、俺はいつもより低い声音で口を開いた。

その言葉は天然女に対してのものでも、にらみつけるような視線は目の前の男へと向けられている。

俺より数センチ高い位置にあるその顔は嫌味なくらいにこやかで、まるで値踏みでもするかのように俺をじろじろと見てきた。



「ふーん、あんたが真白の言う『せんぱい』……話通りかわいい顔してんね」

「あ?」

「身長、オレより低いんだ。オレもそう高い方でもないけど」

「はあ?! てめ……っ、」

「え、慧くん何言ってるの?」



ピリピリした俺たちの空気をよそに、横にいる天然女は目をまるくしながら頭にクエスチョンマークを浮かべている。


つーか、おまえも少しは空気読め。つーか、『ケイくん』なんて名前呼びしてんじゃねぇよ。


目の前の男も、全然わかってないような天然女にも、何もかもに苛々する。そしてその苛々する感情のままに、俺はすぐそばにあった天然女の右手をとってぐいっと引いた。

わわっ、なんて声をあげながら天然女は少しふらついて、俺の斜め後ろに半分隠れるような状態になる。
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