Kitty love
そこでなぜか急におとなしくなった、未だに俺の腕の中の天然女。

怪訝に思って視線を下にずらすと、ちょうど彼女がパッと顔を上げて目が合った。



「ね、せんぱい」

「ん?」

「せんぱい、あたしの名前は『おまえ』じゃなくて、『浅木 真白』ですよ?」



言いながら、少し悪戯っぽい笑顔。

つまり俺に、名前で呼べって?

そういえば俺は今まで1度もこいつの名前を呼んでいないことに、今さらながら気づく。

……改めてねだられると、やけに緊張する、かもしれない。



「ねぇ、せんぱい」

「──……ましろ」



甘えるようにじっと見上げられて、気づけばするりと口から出ていた。

1度出た単語は、後から後から口からこぼれ落ちる。



「ましろ、……真白」

「せ、せんぱ」

「真白、」



──ああ、駄目だ。名前を呼ぶたびに、そして赤く染まる頬を見るたびに、どんどん愛しくなっていく。

ここが学校の廊下だってことも忘れて、俺は彼女の名前を呼びながら、ゆっくりと首を傾けた。
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