Kitty love
少しの間触れた唇が離れると、真白は真っ赤な顔でうわごとのように「せんぱい、」と小さく呟いた。



「……つーか、それじゃ不公平だろ」

「え?」

「俺は『真白』って呼ぶのに、そっちは『高原せんぱい』なわけ?」



わざと不機嫌な調子で言うと、真白はかわいそうなくらい赤く染まった頬をうつむかせる。

こちらからは見えなくなってしまった唇が小さく言葉を紡いだのに気づいて、俺は耳を近づけた。



「ん? もっかい」

「る、琉可、せんぱい」



断言する。きっと今、俺は端から見るとものすごい笑顔だろう。



「何? 真白、聞こえない」

「うえっ、……るっ、琉可せんぱいっ」



抱きしめていた腕を緩め、代わりにわざと耳元に唇を寄せながら聞き返すと、真白はぎゅっと俺の腕を掴んで堪えるように再度名前を呼ぶ。

そんな彼女の様子に、意地悪だと評されるのを知りながらもまた俺は笑って。


嫌で仕方なかったはずの自分の名前は、彼女の口から発せられるだけで、今この瞬間特別なものへと変化した。
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