ゆら ゆら
 

ホントに地獄みたいな毎日で、お父さんみたいに逃げられたらどんなに楽だろうかと何度も考えたし、今でも長袖しか着れない傷が手首と肘の間にいくつもある。

強かったから死ななかった訳じゃない。

弱くて、狡くて、意気地がなかったから。

早くこの町から、私を知ってる人のいる所から逃げ出したかった。

途中で逃げ出す勇気すらなかったから。

憎かった。

母親であることを、妻であることを放棄して、女になってしまった母が。

父が亡くなり、少しして夜になると無言で電話がかかってくるようになった。

大抵は嫌がらせ。

でも、こちらを窺う息遣いが他とは違うのがあることに気づいた。

それはいつも決まった時間で…。


ある晩思いきって聞いた。

「…お母さん?」


 
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