恋人たちのパンドラ【完】
悠里は目の前にニコニコと部下の綾川と座っている壮介を小さくためいきをつきながら見つめた。

高級中華を提供するこの店の個室に、悠里は課長と直樹とともに呼び出されていた。

名目は『先日の展示会の慰労』だったが、できれば悠里は逃げ出したかった。

課長に引きずられるように連れてこられて逃げられなかった悠里は、ただ目の前にいる相手を恨めしい思いで見つめる他なかった。

会食は表面上は明るく楽しいものだった。しかしこの席を単純に楽しんでいるのはきっと課長だけだろう。

「いや～わざわざこんな風にして頂いて恐縮です」

少し髪が後退し始めている頭をかきながら、壮介からビールをお酌してもらっている。

「いえ、いえこちらこそ、ＹＡＭＡＴＯさんのおかげで今回の展示会も盛況でした」

壮介は営業スマイルとわかる笑顔を浮かべていた。
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