恋人たちのパンドラ【完】
この空間の違和感を覚えているのは、悠里だけでなく直樹もまた事情を感じ取っている綾川もしかりだった。

展示会の時点で壮介の悠里に対する態度とあまりにも違いすぎる応対に、直樹も綾川もこの二人の間に何が起こったのか、そこが気になり食事に集中などできるはずもなかった。

「徳永さんもどうぞ―――」

そう言って、悠里にもビールを勧めてくる壮介の笑顔の裏の魂胆を見破ろうと必死になってみるが、そんなこと悠里にできるはずもなく、仕方なく持ち上げたグラスに壮介がなみなみとビールを注いだ。

開始から時間もたち、高級中華のフルコースのデザートが提供され始めたころ、悠里は少し酒によったのか胃のむかつきを感じ席をたった。

トイレを済ませて席へ戻ろうとすると、狭い廊下を遮るように壮介が長い脚をだして壁にもたれていた。
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